品川近視クリニックの資料には割引券がついており、それを持っていくと検査が無料になり、更に手術を五千円引きにしてくれるようになっていた。少しでも安い方がいいのはもちろんである。そして、フリーダイヤルで、品川近視クリニックに電話で予約を入れた。
その時はまだ気が楽だった。銀座まで行くのは大変だが(品川近視クリニックは東京都中央区銀座にある)、検査だけである。逆にこちらがクリニックの様子や雰囲気、対応などについてじっくり吟味してやろう、という気分だった。
まだ高い手術代を払ったわけではないし、手術をそこですると決めたわけではない。やめようと思えば、この段階であればいつでもやめることが出来るのだ。簡単な検査をさらっと受けて、帰宅すればいいのだ。
今思えば噴飯ものだが、新興宗教のように手術を受けることを強制されるのではないか、という不安は少しあった。化粧品でよくあるのだが、道を歩く女性にカウンセリングだけでも受けてください、と言われて、部屋に連れて行かれ、カウンセリングで女性を言葉で追い詰め、高い化粧品を買わせる、そんなところがあることを知っていた。そんな時は相手が何を言おうと、おかしく思われようと、走って逃げようと思っていた。
あと、少し不安に感じたのは、前に述べたが僕に手術に十分な角膜の厚さがあるかどうか、ということだった。このクリニックで駄目であれば、他の病院・クリニックでも恐らく駄目だろう。僕がこの厄介な目を変えてくれる夢の手術、レーシックはあきらめなければならないのだ。永遠に。
この不安だけは検査日が近づくにつれて強くなった。空腹で我慢できない僕の目の前にはパンが置いてあり、手に取ろうとした瞬間、パンがなくなってしまうのだ。パンを食べるのにはお金がいる。しかし、僕は猛烈に空腹なのだ。パンがなくなってしまってはどうしようもない。検査だけとはいえ、僕にとってはそれくらい切実な問題だった。努力や根性でどうにかなる問題ではない。多分、遺伝子や成長過程で決まってしまうのだ。そして僕の年ではもう、変化することはないだろう。
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